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ふたりのシンデレラ

ふたりのシンデレラ

鯨統一郎
光文社文庫 (2005/09/20)
620円(税込)

 劇団<O-RO-CHI>は「ふたりのシンデレラ」の上演に向けた合宿中だった。そこで、起こった火災によって、事件は幕を開ける。証人、犯人、犠牲者、探偵役、ワトソン役、記録者、容疑者、共犯者という一人八役の「わたし」。その「わたし」が語る物語にはどんな結末が待ち受けているのだろうか……

 ミステリ界の問題児、鯨統一郎が挑戦した、一人八役という超難題。その発想は面白いし、文章自体も読みやすい。序盤で登場人物のデータ表を提示しているところはフェアだと言えよう。

 しかし、どう考えても、一人八役というのは無理がある。真相を明かされても、八役であるとは納得し難い。そうだと言われれば否定はできないが、こじつけだと言うそしりを受けても仕方ないだろう。ネタバレになるので詳細には書けないが、一人八役であることを説明する際に、すり替えが行われているのである。

 また、トリック自体も質が高いとは言えず、標準作程度の出来であろう。解説では、著者が「ストーカー」などの社会問題をいち早く作中に取り入れたことを称えているが、これは、作品の中心であるトリックがイマイチだったための苦肉の策なのではないかと思ってしまう。

 鯨統一郎の文章というのは、確かに読みやすい場合が多いのだが、その読みやすさは、深みがないからであり、上滑りしているような文章なのである。だから、決して文章が巧いとは言えない。しかし、それでも一定の人気を保っているのは、氏のミステリに対する深い愛情と、新奇なことに挑戦するチャレンジ精神の旺盛さゆえなのだろうと思う。本作も鯨作品のそういう特徴が強く表れているため、読者によって好き嫌いが別れることだろう。そのため、積極的にはお勧めしないが、一度味わってみても良いかもしれない。

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