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塩原殺人行

塩原殺人行

草野唯雄
光文社文庫 (1988/09/20)
462円(税込)

 草野唯雄と言えば、ブックオフの「く」の棚で見かけることの多い作家である。本当は「そうのただお」だから、「そ」の棚にあるはずなのに。草野に限らずこういう間違いは不勉強なアルバイト店員のおかげで度々見られる。しっかりふりがなも振ってあるし、背の部分に「そ 1-9」って書いてあるのになぁ。

 現代のミステリファンにとってもあまりなじみのない名前であることは確かだから、仕方ない。だが、多くの作品を生み出したベテラン作家であることは確かだ。などと知った風なことを言っているが、私も本書が初めて読む草野作品であったりする。

 本書には、表題作の「塩原殺人行」の他に、「大東京午前二時」が収録されている。後者は、昭和42年の乱歩賞で最終選考に残った「失われた街」を圧縮・改稿し、雑誌『推理界』昭和43年2月号に掲載された作品だ。すなわち、40年近く前の作品ということになる。

 40年も前の作品となれば、古めかしく感じられるのは仕方ないだろう。まして、変化の激しい東京を舞台にしているのだから、その傾向はより強い。それを拭うことができないが、作品のスピード感は衰えていないと思う。

 冒頭は男女の放蕩のような雰囲気だが、それが女性の自殺騒動により、サスペンスに一転する展開が鮮やかだ。彼女は睡眠薬を飲んで、あるビルの一室に閉じこもる。同時に、その部屋のガス栓を開けたため、朝になりガスの元栓が開かれれば、確実に死へといたってしまう。彼女を助けるためにビルを飛び出した主人公は、焦りと酔いのために、車に轢かれ、病院の前に捨てられる。あのビルはどこだったのか。早く見つけなくては彼女が死んでしまう。こうして、時間制限サスペンスが始まるのである。

 期限までにビルを探し出さないといけないという設定が面白い。そして、そこに絡んでくる人々の思惑。刻々と迫りくる時間の中、わずかな手がかりを元に、少しづつビルへと近づいてゆく。警察の捜査が緩慢というか、回りくどい印象を受けるのが玉に瑕だが、サスペンスとどんでん返しは良くできているし、複数の視点が同時進行的に語られるのも効果的だ。推理小説という感じではないが、サスペンス小説としての出来は標準以上であろう。

 一方、表題作の「塩原殺人行」は「大東京午前二時」の半分程度の長さであるが、こちらは駄作だった。トリックが納得しがたいし、フェアでない。トリックに気付かせるための伏線を入れる余地は十分にあるにもかかわらず、それがないため、明かされた時に理不尽さを感じてしまう。犯行方法を明かすのが物語の中心というわけではないのだろうが、それにしても物足りない。後半からは(またも)時間制限サスペンスに移行するが、それほど緊迫感もなく魅力的とは言い難い。頭を使わずに読み進められるのがせめてもの救いか。

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